著者
打田 素之
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
神戸松蔭女子学院大学研究紀要. 文学部篇 = Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.31-42, 2019-03-05

Boys Love をテーマとするマンガは、過激な性行為を描きながらも、男性向け成人マンガとは明らかな相違を見せる。性行為の場面において、男性向けマンガが常に女性の裸を提示することに専心するのに対して、BL ジャンルは〈受け〉と〈攻め〉の両方の身体を描写する。これは女性が両者に感情移入可能な性であるばかりでなく、〈攻め〉=男性としてふるまいたいという欲望を持っていることも示している(ファルス願望)。この欲望は、精神分析学的には、〈父〉の登場によって母の独占を禁じられた女児が、父に「変身」することによって、父が母を所有していたように母を得ようとしているのだと考えられる。しかし、母と同じ性である彼女にそれがかなうはずがない(=彼女がまとっている父の性は「仮装masquerade」でしかない)。そこで、娘は性的体制が確立する以前(=前エディプス期)の母との関係の回復を目指す。そうすることで、彼女は母との合一を果たし、性器体制の外にある愛を成就しようとする。ここにBL ジャンルが同性愛をテーマとした理由がある。女性達は、ファルス願望の実現を通して、実は「非性」という「同性愛homosexual」の物語を楽しんでいるのである。
著者
打田 素之
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
神戸松蔭女子学院大学研究紀要. 文学部篇 = Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.13-22, 2018-03-05

『君の名は。』ヒットの要因はいろいろと分析されているが、この作品が日本的悲恋物の系譜に属する作品であったことが大きいと考えられる。日本人は近松浄瑠璃の昔から、共同体の制度や倫理に阻まれて、死に行く恋人たちの物語を好んで消費してきたが、こうした障害は社会の発展・民主化とともに、1960 年代は〈難病〉へと姿を変え、80 年以降、新しい要素として〈時間〉が現れた(『時をかける少女』)。『君の名は。』も、「時の隔たり」が恋人達を引き裂いているという点において、この伝統に連なる作品だと言える。 また、彼らの恋愛成就とヒロインの住む町の運命が一体となっていることは(=セカイ系)、それまで恋人達の敵であった共同体が、彼らの恋愛成就を助ける側となったことを意味し、日本的悲恋が新しい物語形態(=共同体との和解)を採用するに至ったことを示している。『君の名は。』のラストは、「歴史の流れ不変の原則」に基づいた「忘却のルール」が破られる展開となっており、これは旧来の共同体が力をもてなくなった現代の日本社会において、00 年代以降の大衆の嗜好に合致するものとなっている。 このように、『君の名は。』は日本的悲恋の伝統を受け継ぐ形で、「時間」という障害を採用しながらも、そのルールを変える新しい結末を用意したことが、全世代的なヒットに繋がったと考えられる。The animated movie "Your name" by Makoto SHINKAI was the biggest hit of the year 2016 ; it took about 24300 million yen at the box office. What made "Your name" such a smash hit ? The first reason is that it follows the dramaturgy of the tragic Japanese love story, although tragic love stories have gradually changed over time. In Japanese cinema lovers used to be separated by social obstacles, morals and ethics, but in the 1960s this changed. In movies such as "The Heart of Hiroshima" by Koreyoshi Kurahara 1966 etc. serious disease became the main reason that lovers could not be together. Then in the 1980s in "The Girl who leapt through Time" by Nobuhiko OHBAYASHI (1983) it changed again and time gap caused lovers to give up their love. The second reason is that "Your name" has made a reconciliation with the community, because the destiny of the heroine's town is connected deeply with the achievement of their love. The former point could make middle aged and older people go to the theater and the latter attracts all generations who recently tend to tolerate the transgression of the norms of the community and the society. That is the why "Your name" is a big hit.
著者
池谷 知子
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
神戸松蔭女子学院大学研究紀要. 文学部篇 = Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.55-70, 2016-03-05

日本語を母語としない日本語学習者(留学生)にとって、日本人との交流授業が有効であることは知られているが、留学生との交流が日本人学生にどのような影響を与えるのかということはあまり明らかになっていない。なぜなら留学生がキャンパスにいることが、本当に「国際化」を促しているのかはなかなか検証しにくい問題であるからである。キャンパス内にいる留学生と授業を通して交流することが、自然に多文化共生を学ぶ機会となり、日本人学生の意識の内側から「国際化」を促していることを確認していく。また、それは学年が上がるごとに強くなっており、キャンパスの国際化に対して、海外へ学生を送り出す以上に、日常生活で様々な文化的な背景をもった留学生と交流し意見を交わすことが、大きな役割を果たしていることをデータからみていく。
著者
打田 素之
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
神戸松蔭女子学院大学研究紀要. 文学部篇 = Journal of the Faculty of Letters, Kobe Shoin Women's University : JOL (ISSN:21863830)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.13-22, 2018-03-05

『君の名は。』ヒットの要因はいろいろと分析されているが、この作品が日本的悲恋物の系譜に属する作品であったことが大きいと考えられる。日本人は近松浄瑠璃の昔から、共同体の制度や倫理に阻まれて、死に行く恋人たちの物語を好んで消費してきたが、こうした障害は社会の発展・民主化とともに、1960 年代は〈難病〉へと姿を変え、80 年以降、新しい要素として〈時間〉が現れた(『時をかける少女』)。『君の名は。』も、「時の隔たり」が恋人達を引き裂いているという点において、この伝統に連なる作品だと言える。 また、彼らの恋愛成就とヒロインの住む町の運命が一体となっていることは(=セカイ系)、それまで恋人達の敵であった共同体が、彼らの恋愛成就を助ける側となったことを意味し、日本的悲恋が新しい物語形態(=共同体との和解)を採用するに至ったことを示している。『君の名は。』のラストは、「歴史の流れ不変の原則」に基づいた「忘却のルール」が破られる展開となっており、これは旧来の共同体が力をもてなくなった現代の日本社会において、00 年代以降の大衆の嗜好に合致するものとなっている。 このように、『君の名は。』は日本的悲恋の伝統を受け継ぐ形で、「時間」という障害を採用しながらも、そのルールを変える新しい結末を用意したことが、全世代的なヒットに繋がったと考えられる。